三隅 貴史

社会学研究科 特別任用助教
関西学院大学社会学研究科 博士課程前期課程修了
関西学院大学社会学研究科 博士課程後期課程修了

なぜ関西学院大学 社会学研究科に進学されましたか?

これまでの人生で一貫して興味を持ってきたことは、啓蒙主義的な立場と、人間の創造性を礼讃する立場とのあいだで、人間の実践をどのように説明することができるのかという問題です。具体例をあげてこの問題について解説するならば、都心部において10平方メートル以下の広さの物件が人気を集めていることについて、それを「貧困の象徴」や「政策の失敗」として説明するのか(啓蒙主義的な立場)、「限られた条件のなかでより良く生きるための豊かな創造性」として説明するのか(人間の創造性を礼讃する立場)、あるいは、これらの立場のあいだで、どのような別の説明が可能なのかを考えることです。別の事例を取り上げるならば、一部地域で実施されている、派手で「荒れる」成人式について、「良き選挙民」の育成の失敗として説明するのか、「近代」が生み出した諸制度にたいする「抵抗」として説明するのか、はたまた、どちらでもないのか、ということです。

私は、民俗学の基本的な発想と、当事者の論理を理解するためのフィールドワークとを組み合わせることで、人間の創造性をめぐる諸問題にたいして深い考察に到ることができると考えています。この人間の創造性をめぐる諸問題について、人生を費やして考えたいと思ったので、大学院に進学し、民俗学を専攻しました。

関西学院大学の社会学研究科は、民俗学を専門にして博士号を取得可能な、日本における数少ない民俗学研究の拠点です。そのなかでも、本研究科の魅力は、①新しい民俗学を構想し、それを現実させるうえで、魅力的な教授陣が揃っている点、②社会学・文化人類学・文化研究など幅広い視野を身につけながら自らの研究を進めていけるようカリキュラムが整えられている点の2点です。私は関西学院大学社会学部の出身者ではありませんが、このような環境で先端的な研究を行っていきたいと考えたことから、社会学研究科に進学しました。実際に、投稿論文や博士学位申請論文を執筆するうえで何よりも、このような環境で学んだことが活かされたと感じています。

また、金銭面での支援が充実していることも、進学を決めた理由の一つです。本研究科には、海外発表に最大20万円を支援する大学院海外研究助成金、学費相当額が免除される大学院博士課程後期課程研究奨励金、博士論文を提出する年度に採用される可能性があり、年額300万円の支援が受けられる大学院奨励研究員などの手厚い金銭面での支援があります。これにより、金銭面で悩むことなく、自分の研究の深化だけを考えることができます。細かい部分でさまざまな研究支援が充実している本研究科のあり方は、他大学の院生たちからもよく羨ましがられます。

どういった研究に取り組まれているか教えてください。

東京都台東区浅草などで実施されている熱狂的なお祭りにおいて、仲間と一緒に神輿を担いでいる神輿愛好家による集団、「神輿会」に対するフィールドワークを通して、現代東京の神輿渡御のありようを明らかにする民俗学的研究に取り組んでいます。このテーマを選択した理由はいくつかあります。祭礼という民俗学の古典的テーマでありながらも、海外の民俗学の知見を取り入れた現代的な研究ができると考えたから、人口減少・高齢化のなかでの地域社会の共同性という切実な問題を考えることにつながるから、そして、前述の人間の創造性についての諸問題を考えるための好例だと考えたから、などです。 神輿会にかんする研究がひと段落ついてからは、「地域外参加者」と「闘争」とをキーワードとした日本全国の祭礼の研究を進めているほか、民俗学の世界的な研究動向をふまえて、新しい民俗学をどのように構築できるのかにかんする民俗学の理論・学説史研究、NHKの伝説的TV番組「ふるさとの歌まつり」やアナウンサー/参議院議員宮田輝の活動を対象とした、1960〜70年代の「ふるさと」ブームの研究などを実施しています。

研究に取り組む中で、どういった部分に面白さを感じますか?

研究のすべてが面白い、あるいは、一日一日に面白さがあるとしか言いようがありませんが、そのなかでも特筆すべきことをあげるならば、私と同じように新しい民俗学のありようについて毎日考えている世界中の民俗学者と、土台を共有したうえで、同じ問題について話し合うことができていると感じたことです。本研究科での学びのなかでは、日々、世界の民俗学の状況に目を配りながら、海外の民俗学関連学会での発表や海外の民俗学者の招聘を行なっていました。学会発表等の機会で海外に行くこともよくありましたが、同じように新しい民俗学のありようを模索している世界中の若い民俗学者たちと友人になり、同じ土台を共有したうえで語り合い、互いの研究を深め合う機会を経験できたのは何よりの魅力だと思います。

【研究実績】

「日本民俗学におけるインターネット研究の課題——アメリカ民俗学の学説史の検討をとおして」『現代民俗学研究』(14),2022年。
「祭礼における共同性はいかにして可能か——東京圏の神輿渡御における町会-神輿会関係を事例として」『ソシオロジ』64(3),2020年。
「東京周辺地域の祭礼における『江戸前』の美学の成立――神輿会に注目して」『日本民俗学』(292),2017年。


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