社会学の面白さは、
自分を含む社会を濃密に観察すること
――ここからは、貴戸先生の研究手法であるフィールドワークについて伺いたいと思います。まずはフィールドワークがどのような研究手法であるか、説明していただけますか。
フィールドワークは実際に現場に行ってインタビューや参与観察を行う質的な研究方法の1つです。自分自身が現場に巻き込まれ、ある程度内側から対象を見るというのがポイントですね。フィールドワークでは、対象者が持つ経験や行為に対する意味づけ、あるいは人や集団が変化していくプロセスを知ることができます。
――具体的にはどのようなフィールドワークをされているのですか。
現在、私がフィールドにしているのが「生きづらさからの当事者研究会」という会です。月に1回、「生きづらさを抱えている」と自認する人たちが10~15人ほど集まって話をすることで、自らの生きづらさを共有して深めることを目的としています。私はコーディネーターとして関わっているのですが、日々自分自身が問われます。私にとっては単に研究のフィールドではなく、問いそのものをいただく場としても非常に大事です。
――問いをいただくということがフィールドワークならではといった感じがしますね。
そうですね。そもそも、社会学というのは自分が生きている社会そのものを社会の内部にいながら捉えようとする学問だと思っています。その研究方法には様々なものがありますが、私はよくアサガオの観察の例を出します。
――アサガオの観察ですか。それはどういうことでしょうか。
小学校のときに学校でアサガオの観察をした人は多いですよね。その場合、観察する自分はアサガオから距離を取って、外側から見ています。でも社会学では、観察する人も社会のなかに含まれているから、対象と明確な距離を取ることはできません。自分自身に巻き付いているアサガオを無理やり観察する、みたいな感じですね。特に質的調査では、対象との距離が近くなるので、観察者と観察対象のあいだの切り分けがいっそう難しくなります。揺さぶられるし、不確実性も大きい。でもその複雑さが私にとってはすごい大きな魅力ですね。