調査のための多様な手法を学ぶ
――統計データだけでは人間の姿は見えてこないから、そこまで踏み込んで調査を行い、問題を解きほぐしていく必要があるということですね。でも学問としては設計をシンプルにしたほうが説明しやすいと思うんですけど、そこであえて考えるべきことを増やすのはどうしてですか。
うーん。単純に面白いからですね(笑)
データ分析の研究も質的な研究も、一人でやっているわけではないんですよね。誘われたり、チームを取り組んだりしています。データ分析の方は、たとえばデータ分析の技法を新しく勉強したり、社会調査の回収率を向上させるための技法をみんなで考えています。一方の質的研究の方は、自分の専門外のいろんなことに詳しい人と、たとえば行政学や経済学の研究者と一緒に調査をしています。そうやっていろいろコラボして、社会の見えなかったところが見えてくるのが面白いですね。
――テクニカルなことを考えるのも、社会学者が自分しかいない中で自分にしかできないことを考えるのも楽しい。やはりデータ社会学といっても、数字だけ見ていてもダメだということでしょうか。
でも、強調しておくと私はやっぱり数字を扱うのが得意なんですよ。だから自分のスキルをいまの自治体調査でも発揮できていると思います。コロナ禍でインタビュー調査を行ったんですけど、その際には、まずは質問紙調査をして、それからインタビュー調査への協力をお願いするという手法を採用しました。やっぱり数が大好きなので、まずは数量的に把握したいんですね。自治体の行政サービスの充実度を調べるときも、支援実績や、会議の数とか種類、参加者の多様さを把握する質問紙調査を行って、まずはそれぞれの自治体の特徴を探るんです。そういう発想は、困窮者支援に関する従来の調査研究ではあまりないんですよね。
――なるほど。数字だけを見るのとは逆に、生活困窮者の当事者の声だけを拾っても全体像は見えてこないということですか。
私の研究チームではこれまでもずっと強調してきたんですけど、「メゾ(中間)レベル」の研究をしたいんですよね。マクロというのは社会全体の傾向、ミクロというのは個人に焦点を合わせたものだけど、メゾは地域、たとえば阪神間くらいのサイズを指します。メゾレベルでみると、社会や地域の動きがよく見えるんです。そのなかで生きるミクロ、つまり個人の行動や意識を見ようと思っています。
――先生の研究のお話を聞いていると、社会調査の奥深さが見えてきました。関西学院大学社会学部では、こうした調査についての科目も充実していますが、その点についてはどうでしょう。
やはり社会学部のいいところは、社会調査をちゃんと学べることだと思います。やっぱり「人をちゃんと見られる」学問ですよね、社会学は。
私は「社会調査入門A」という科目の担当を長年やっているんですが、この科目がすごく大好きなんです。この科目では量的データも質的データも、インタビュー調査も参与観察も必要であるということを説明しています。社会学部ではいろんな方法を使うゼミが幅広く開講されているので、調査方法を学ぶことは2年生で専攻分野やゼミを選ぶ際にも役立ちます。社会学部で学ぶことで、「社会の中で生きる人間」を理解することができると思います。
――「社会の中で生きる人」を理解するってどういうことなんでしょう
私は高校生のときに社会学を学びたいということで大学を選んだんですよ。
最初は、人間を理解したいと思って心理学を専攻しようと考えていました。でもその時の私にとって心理学の視野は狭いなと感じました。人間の考えというのは、いろんなこと、たとえば周りの環境に影響を受けて構成されているんじゃないかという実感があって、人間を取り巻く状況を理解するために社会学って有効だなと思ったんです。
そして、やっぱりデータを扱うことですよね。文学であれば書かれたテクストが主な題材になると思うんですけど、社会学はテクストも扱えるけどインタビューデータも扱えるし、もちろん質問紙調査をして量的データも扱える。方法が多様なのがとてもいいですね。
――ひとつのやり方に縛られたくなかったと。
もちろん手順が決められたやり方は大事だし、それがないと科学にはならないんです。
科学的でありながらも多様だ、ということが魅力です。データと言っても、マンガや映像という数量以外のものもデータになります。私のゼミでは3年生のときに質問紙調査をして、分析をして、多変量解析を行うところまで指導します。量的データをきちんと扱えるようになると、社会調査の方法論が身につくんですね。つまり、仮説を立てて、調査して、得られたデータを使って科学的な方法で分析を行い、結論を出すという一連のメソッドですね。4年生になると、そのメソッドに基づいて、各自が自分の研究テーマに合った調査方法を選択して卒論を書きます。テーマによっては質的研究が適切なこともある。だから、実はインタビュー調査をして卒論を書く学生も結構多いんです。
――データ社会学だからといって数式がいっぱいということではなく、データを量的に扱い、自分の関心を明らかにしていくのが大事なんですね。
目的がないと勉強する気にならないじゃないですか。高校生の多くは、なんのためにこれを勉強するのだろうというところで数学につまづくんだと思うんです。
――「これを知りたい」と思ったときに数字が知りたいと思えば勉強する気になる。分かりたいもの、明らかにしたいものがモチベーションになるし、1年生から教えてもらえるのが社会学部の魅力ですよね。
私も自分の授業で、関学の社会学部はいいところだよって言ってるんですよ。社会調査やデータ分析についての授業がこんなにたくさんある学部はないです。入門の授業でも数学の話はほんのちょっとしか出てきません。まずいろんな手法の比較を行うんですね。量的調査と質的調査はどこが違うのか、全体的にどのような方法があるのかを紹介しています。
やっぱり、これからの時代は「専門」っていうのを持ったほうがいいと思います。社会学を学ぶと、社会調査の専門家になれます。これから生きていくことの強みになると思います。
――社会学部しかできないのは、選択の幅と専門家の多さですよね。最後に高校生にメッセージをお願いします。
私はいつも社会のダークサイドを見てしまうのですが、社会問題について真剣に考えたい人にはおすすめですね。未婚化でも過労死でもなんでもいいんですけど、「問題だ」と言われ続けているのに、今に至るまでなんで解決していないんだというものってたくさんあるじゃないですか。社会の問題って、表層的な理解では絶対に解決を導くことはできないと思うんです。